奇想天外すぎて、大人は追いつかない
こぎつねせかのはてへ ゆく
アン・トムパート作 ジョン・ウォルナート絵 星川菜津子訳
初版1978年(?)ほるぷ出版 写真は新訳のため童話館出版
夢のようなお話が、すっと受け入れられる小学校2年生で使用しました。もう家の周りで遊んだり、公園や学校のグランドなど見飽きてしまった子供たちにとって、このこぎつねの空想は共感を呼んだようです。
- 分かりやすさ…★★★★☆
- 絵の素晴らしさ…★★★★☆
- 何度も読む…★★☆☆☆
- どんな時に読むか…複数人で自宅にいるときに、ごっこ遊びとして
いつもおなじ庭でひとり、毎日遊んでいるこぎつね。いつも見る風景や、同じ遊びにちょっと物足りなくなってきたよう。そこで、ママに「わたし、せかいのはてへ旅に出るわ」と突然に話しはじめてしまいます。ママはもう、びっくり!
思い描くこと=夢をみること?
旅をしてみたいと、一度や二度、いやもっともっと思ったり願ったりするたびに憧れの地をため息交じりで思い描いてみるでしょう。しかし、この絵本は“せかいのはてへゆく”道中のお話であって、世界の果てには何があったかなんて、特に何も記述されてはいないんです。
毎日がたいくつ、というわけではなさそうなのですが、こぎつね(しかもセリフを読むと、こぎつねは女の子のようです)は好奇心のかたまり。庭のあちこち、隅々を飛び回っているのですが、毎日毎日何かが大きく変化するような出来事はなく、また親の目の届く範囲でなければ、遊んでいることも出来ません。幼いながら思い描く一人旅の成功。一つの遊びを覚えてしまう子供にとっては、想像力が一番の味方になっていきます。遠くにある森をみて、また森の上に広がる空と雲を見て、更にその向こう側に広がっているであろう川や海を思い描く…そんな夢物語が大きく楽しく広がるひとときを持つことこそ、子供のための権利でしょう。しかし大人は「そんなうそばっかりの夢なんて、現実を知らないのは可愛い証拠ね」と、笑って聞き流すことでしょう。正しいことを教えて上げたくなる、間違いを直してあげたくなる衝動を大人はどこまで我慢できるでしょうか。
しかしこぎつねが語る世界は、大きく羽ばたきすぎているわけではありません。自分が見たもの、聞いた音、触れた感じなどを拠点にして旅に出ているのです。絵本のママはそのことを十分に理解してこぎつねの話しに相づちを打っています。
受け入れられることの幸せ
こぎつねは、目的地“せかいのはて”までの道中について話しをしています。そしてその道中は必ず困難で危険が伴っています。とても幼い女の子一人で進めるものではありません。しかし、こぎつねは自分が困難と闘う準備が整っていると豪語し「でもだいじょうぶ」と困難に打ち勝つ方法を述べていきますが、困難と闘うための色々な道具は、身近にあるものやママが誂えてくれた服や布団シーツなどです。ママは身近な道具で戦う我が子の話を全身で受け止め、そして安心して聞いています。それは恐らくこぎつねが道具の使用方法を上手に工夫しようとしているからで、間違った方法や残虐な方法を、まず示さなかったことが要因でしょう。
こぎつねは次から次へと難関をくぐり抜けていきます。冒険を聞き続けているママは心配な表情を示したり、時折相づちを打ちながら、繕っていた洋服を着せてやります。それでもこぎつねは自信たっぷりにずんずん進んでいきますが、なかなか“せかいのはて”へ到着できません。こぎつねの自信はもちろん冒険を成功させた経験からくるものではなく、ママがそばにいてくれるから、つまり
どんなときでも自分を信じて見守っていてくれる大人がいる、安心感
が、そうさせているとしか、思えません。そしてこの親子はお互いを尊重し合っている理想の姿であると考えられます。
毎日、親子の距離感というのは微妙に違ってきます。その距離感をうまく保てずに大人が苛々する前に少し立ち止まって、親の方から、子供の距離感をそっと測って親の位置を決めたいところですね。またこのこぎつねは、ママから応援されていることを、服を着せてくれるような仕草でしっかりと理解が出来ています。
大人がこの絵本を読むときは
ー思い出してください。
幼い頃、王子様になったりお姫様になったり、またヒーローになったり、いつか普通に動物と会話が出来るようになっていたり、実はまだ分からないだけで自分にはオリンピック選手並の運動の才能があるんだと思ったり、しましたよね。そのころの自分になって、この本をまず一人でじっくり読んでみてください。そしてもし読み聞かせることがあるのなら、目の前にいる子供たちは「幼かった頃の自分」です。冒険に憧れていた時代の自分自身に読んであげましょう。きっと夢が空に向かってひろがっていくに違いありません。そしてこのお話の最たる謎
せかいのはてって、どこにあるの?
を共有してください。私が読み聞かせをした2年生に聞いてみたら
せかいのはては、せかいのハテナのこと。世界の難問へ旅に出ることだよ
と教えてくれました。
コメント